高3 理科×美術 教科横断授業
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高3の芸術概論では、理科と美術の教科横断授業を行いました。テーマは、「ギリシャ・ローマ美術の作品を通して筋肉の動きを見る」です。美術の教員と理科の教員が一緒に授業を行いました。授業の内容を、少しブログで紹介します。
今回鑑賞した作品は、以下の5点です。
「アルテミシオンのゼウス(ゼウスまたはポセイドン)」 アテネ国立考古学博物館蔵 紀元前480年~前323年
「円盤投げ(ディスコボロス)」 ミュロン作 大英博物館蔵 紀元前450-前440年頃
「ラオコーン」 ヴァチカン美術館蔵 紀元前1世紀後半頃
「ミロのヴィーナス」 ルーヴル美術館蔵 紀元前130年頃
「サモトラケのニケ」 ルーヴル美術館 紀元前190年
「アルテミシオンのゼウス(ゼウスまたはポセイドン)」は、両腕を横に伸ばしていて右手に何かを持っています。右手に持っていたものは失われており、持っていたものは雷であればゼウス、槍であればポセイドンと言われています。
この時、筋肉の動きは右腕は曲げようとしているので上腕二頭筋(いわゆる力こぶの部分)が少し盛り上がっています。一方、左腕は伸ばす動作なので力こぶの部分が平らになって、上腕三頭筋(力こぶの反対の下側の部分)がわずかに盛り上がっています。
「ラオコーン」はギリシア神話のトロイアの神官ラオコーンとその2人の息子が海蛇に巻き付かれている情景を彫刻にした作品です。発掘当時、彫刻家ミケランジェロが立ち会ったと言われていて、彼はこの作品の右腕は曲がっていたと予想しましたが、ラオコーンの右腕は大きく伸ばされた状態が相応しいと判断され、伸ばされた腕の状態で修復されました。
その後、ローマで大理石で出来た右腕の破片の彫刻を発見され、1950年代になってから、『ラオコーン像』の右腕は曲がっていたという鑑定結果を出されて再び組み直されました。腕周辺の筋肉を見ると、確かに右腕が曲がっていた状態のほうが自然に見えます。
さて、ここまでの紹介を踏まえ、「ミロのヴィーナス」と「サモトラケのニケ」の失われた腕を見てみましょう。
どんな腕がついていたと想像できるでしょうか。
生徒たちは、美術館のサイトに掲載されている写真などを参考にしながら、ワークシートに描き込みました。生徒同士で相談しながら、考えを広げてゆきました。
「ミロのヴィーナス」はどのようなポーズだったのか。
左肩周辺の筋肉がやや盛り上がっていることから、肘が上か下に曲がっていたのではないかと想像する生徒が多数いました。
また、右肩は下がっているので、腰の布をおさえていたのではないかと想像する生徒がいたようです。ボッティチェリ作の「ヴィーナスの誕生」をイメージし、類似したポーズを予想した生徒もいました。ボッティチェリがミロのヴィーナスから影響を受けている可能性もありますね。
それでは、「サモトラケのニケ」はどんなポーズだったのか。
こちらは、右肩が上がっていることから、腕を上に上げていたと想像した生徒がほとんどでした。「ニケ」は勝利の女神なので、手には「月桂樹の冠」や「剣」を持っているといった意見や、ドラクロワ作の「民衆を率いる自由の女神」をイメージし、旗を持っていると想像した生徒もいました。ドラクロワがサモトラケのニケから影響を受けている可能性もあります。
生徒たちは他の人の意見にも真剣に耳を傾けていました。
「ミロのヴィーナス」も「サモトラケのニケ」も、未だにどんなポーズだったのか分かっていません。
失われているからこそ美しい、といった意見もあります。
「ラオコーン」のように、いつか謎が解明され、答え合わせができる日が来るかもしれません。
このほかにも、古代の作品で手足が失われているものは多数あります。
生徒たちには、この授業をきっかけにして、作品鑑賞をする際には想像力と生物学的な視点も併せ持ち、考えながら見てほしいと思います。
(美術:長峰/理科:伊藤)